人気作家・三田誠広さんの初期作品です。学生運動が全盛の時代に、田舎から上京してきた「僕」がなりゆきでB派(仮名)の活動に参加することになり、他派との抗争や内ゲバに巻き込まれるというお話です。
主人公は母親についてきてもらって家財道具を買ってもらい、炊飯器がいるのいらないので母親と喧嘩して、わざと冷たく当たったりするような、子どもっぽいごく普通の学生です。
とても読みやすく、チープなタイトルから一見陳腐な印象も受けますが、「限りなく透明に近いブルー」のようなトンがった人種の青春ではなく、とても小市民的な青春観が時代を超えて共感できます。
受賞当時は当世風の等身大の大学生を描いたことが評価された作品だと思いますが、現代では学生運動なんて想像もつかないので、当時の雰囲気を知るという意味でも大変興味深い作品でした。
主人公は特に主義主張もなく、何となく居心地の良い居場所を探して学生運動の端っこに足を踏み入れますが、中身はまだ幼さの残る普通の子どもです。
セクトのリーダーや学生運動を熱心に取り組んでいる同級生や先輩も結局は子どもで、主人公と同様たいした主義主張があるわけでもなく、学生運動というゲームにのめり込んでいるだけだったり。
所詮大学生はまだ半人前の存在で、「僕って何」という問いの答えは、「まだ何でもない」というのが大学生の本質で、それがまた楽しいんだろうなと。
これが芥川賞と言われると微妙な感じはしますが、何となく時代的にも銀河鉄道999の星野鉄郎を彷彿させるどんくさい主人公がほほえましく、不思議と憎めない作品でした。(マドンナとして登場するレイ子がメーテルのイメージ)
↓アマゾンのユーザーレビューではおおむね高評価です。
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