現役僧侶が描いた僧侶の話として話題になった作品。作者の人柄が現れたようなとても安定感のある文章で、ああ、こういうのがやっぱり文学であり、芥川賞だよなあ、としみじみ思えるような良い作品でした。
テーマは、死ぬとはどういうことか?成仏とは何か?
と大変ヘビーな内容ですが、僧侶という「死に接することが日常」の職業者の目線で描かれているため、いたずらに感情的でもなく、かといって理屈っぽくもなく、関西弁の嫁との軽妙なやり取りの中で、ごく中立的に、でも説得力のある言葉で、死というものが語られます。
そうすると、仏教とか宗教とかの教義めいた話になりそうですが、僧侶の主人公がとても理性的で、「仏教なんてそんなもんだよ」というドライなスタンスが、かえって仏教の懐の深さを感じさせてくれます。
ただ、主人公の冷静さをよそに、周囲の人々はなかなかオカルティックで、ときに「えっ、ソッチに行っちゃうの?」と不安になる場面がいくつかあるのですが、その度にギリギリのところで、踏みとどまるスリリングなバランスもひそかに面白いポイントでした。
というより、最後に少しだけ科学では説明のつかない何かが起こってしまう時点で、ギリギリ踏みとどまれていないような気もして、できることならば最後まで主人公には何も起こらない方がよかったなあとも思います。
でも、それも踏まえた上で、いつもは成仏させる側の立場の主人公が、親族として死者を送る側に立ったときに、やっぱり他の人と同じように何かが起こる(起こったように感じる)という作者の意図もよくわかるので、この点は賛否両論かなという感じです。
その他にも生とは?死とは?という仏教哲学が随所に盛り込まれていて、まるで手塚治虫の「ブッダ」を読んだときのような、すっきりとしたハラオチ感がありました。
↓アマゾンのレビューでも高評価です。
中陰の花/玄侑宗久
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