ハリガネムシ/吉村萬壱(2003年上半期受賞)


高校で倫理を教える教師が、裏社会に生きるソープ嬢と堕落した生活を送り、めちゃくちゃになる話。倒錯した性と暴力を描いた、典型的なそっち系の作品という印象です。

この作品は数ある芥川賞受賞作のなかでも、かなり好きになれない部類です。
「醜悪なものを描くこと」が自己目的化している感じで、普通に書けばいいようなことでも、とにかく醜悪感を出そう出そうとしている姿勢が見え隠れして、本当にダメでした。

何のためにわざわざ意図的に醜悪に書くのか、読者に何を伝えたいのか、何のためにこんな小説を書くのか、個人的には何も響いてきませんでした。

ただ、作品を読んだだけでは気づかなかったのですが、アマゾンのレビューを見ていると、もちろん私と同じような意見の人も多い一方で、わからなくもない、ほんの少しそんな気持ちになることもある、といった共感の声があるのが意外でした。

自分としては全く逆で、なぜ平凡な教師が突如セックスと暴力の世界に転げ落ちて行くのか理解できず、なし崩しにそうなった気持ちの変化が何とも解せませんでした。

この差はひとえに、潜在的なSとMの問題なんじゃないかと思いました。

そもそも堕ちていく話は好きではないけど、かといって無条件に嫌いというほどでもないにも関わらず、この物語に全く共感できないのは、自分が潜在的にM志向だからなのかも、と。

思い返せば、自虐的・内省的に堕ちる話は結構共感できたりするので、同じように、攻撃的・加虐的な堕ち方を好む人にはハマる物語なのかもしれません。

そして、これだけ人を嫌な気分にさせられるというのも、ある意味文章の持つ力とも言えます。

何も起こらない人畜無害な小説よりは、良くも悪くも一読の価値があったのかもしれませんが、とりあえずこの人の作品を今後読むことはないと思います。

ちなみにもう1作品収録されている「岬行」も全く好きになれませんでした。本当に許せないぐらい好きになれないです。


↓アマゾンのレビューはこちら。意見が割れてますが、さすがにベタ褒めする人とはちょっとお友達にはなれそうにないです。。
ハリガネムシ/吉村萬壱

2000年代の受賞作一覧に戻る

芥川賞作品レビュー