犬婿入り/多和田葉子(1992年下半期受賞)


犬が婿入りするという「犬婿入り」という民話のような出来事が、現代の新興住宅地で本当に起こる、というおとぎ話系の作品です。

主人公は学習塾の女教師で、そこに見た目は人間だけど、中身は犬のような謎の男性が転がり込んできて、なぜか結婚生活のような暮らしが始まります。


犬男の正体は何なのか?という謎解き的な展開を見せるも、結局うやむやのまま女教師とともに姿を消してしまうのですが、一体何が言いたいのかよくわかりませんでした。

謎めいた雰囲気のまま終わるなら謎を解こうとしなくていいし、謎を解くならちゃんと解いてほしいところですが、結局謎をちゃんと回収せずに終わってしまいます。

そもそも一人暮らしの女性の家に、見知らぬ男が訪ねてきて、いきなり肉体関係を持つのは不自然だし、そこを自然に感じさせるだけの共感ポイントも特になく、単に「犬男がやってきた」というネタ一発のみという印象でした。

テーマとしては川上弘美さんの「蛇を踏む」と似ていますが、同じうそばなしでも完成度はだいぶ差があるように感じました。

↓アマゾンのレビューでは、文庫版でもう一つ収録されている「ペルソナ」のほうに評価が集中していました。

犬婿入り (講談社文庫)

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