自動起床装置/辺見庸(1991年上半期受賞)


通信社の仮眠室で眠る人々を起こす「起こし屋」のアルバイトをする主人公と相棒の聡。これまで人力で快適な目覚めを提供することに腐心してきたのに、自動起床装置なるものが導入されることになり、、というお話。

相棒の聡がアルバイト歴が長いため、まさに目覚めの職人と化していて、睡眠と目覚めにものすごいこだわりがあります。

単なるこだわりではなく、もはや哲学にまで昇華されているのがとても面白く、それがこの作品のハイライトと言っても過言ではありません。

普段は怖そうなおじさんも頭が切れるエリートも、睡眠という無防備な無意識の世界に入り込むと、誰しも無垢で可愛らしい姿を見せ、その無垢の世界にフィットした起こし方で、睡眠から目覚めをシームレスに演出する超絶テク。

もうなんだかよくわりませんが、そこには眠る人々と睡眠そのものへの深い愛情が込められていて、バイトの域を超えたプロフェッショナルの流儀を感じます。

というか、この作品を読むまでそんな発想自体持ったことがなかったので、そもそもの着眼点がとても刺激的で、一方そんなことを大真面目に語っている滑稽さは、じみへん的なギャグセンスを感じました。

ただ、ストーリーとはしてはかなりアラビキで、無理矢理起承転結をつけている感が露骨で、ほとんどどうでもいい話ばかり。

正直、タイトルからの否定になっちゃいますが、自動起床装置の存在さえも必要なのか疑問に感じます。

これまでこだわりの人力起床サービスを提供してきたけど、機械にそこまでできっこない、機械なんか信用できない、という職人vs機械の対決の構図があったりするのですが、この物語の面白さはそこじゃないと思うのです。

むしろ睡眠の世界の神秘を追求しすぎた結果、禁断の深淵にまで到達して帰らぬ人となってしまう、みたいな展開のほうが面白そう。

↓アマゾンでの評価はまあまあ
自動起床装置 (新風舎文庫)

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