限りなく透明に近いブルー/村上龍(1976年上半期受賞)


歴代の芥川賞受賞作の中で、最も売れたベストセラー作品。今やカンブリア宮殿のおじさんという印象が強い村上龍が大学在学中の24歳の時に書いたデビュー作です。

村上龍は好き嫌いがはっきり分かれる作家で、私もこれまで何作か読んだことはあるのですが、それほど好きではなく、実は超有名なこのデビュー作さえも読んでいませんでした。

自分の中での村上龍は、セックス、ドラッグ、暴力など、同時代性のあるセンセーショナルな題材を扱うこと自体をマーケティングの武器にしている人、という印象で、純文学の小説家という職業の人ではないイメージを持っていました。

しかし、この「限りなく透明に近いブルー」を読んで、これまでのイメージが完全に覆りました。

今さら何を言っているのかとファンには呆れられそうですが、今さらとても衝撃を受けました。正直、芥川賞読破プロジェクトを始めて、過去30年分を遡って読んでいますが、今のところ最も衝撃を受けた作品かもしれません。

もちろんテーマはイメージどおりのセックス、ドラッグ、暴力なのですが、その混沌とした行き場のないエネルギーとか、出口の見えない刹那的な毎日の中にわずかに灯る希望とか、表現者としての村上龍の才能が爆発している感じが、最初から最後までもう圧倒的でした。

のちに村上龍自身が監督として映画化もされたそうですが、この作品は映画じゃダメな気がします。

描かれている現実はとてもグロテスクなもので、仮におしゃれっぽい映像でオブラートに包んだとしても、この作品の持つ、グロテスクさの中にある「透明さ」を表現するのは無理だと思います。

絶望的に醜悪なシーンの連続なのに、どこか崇高な視点が失われない不思議な世界観は、読み手の想像が行間を埋める文学ならではの表現手法のようにも思います。

そして、だからこそ発表から30年後の今読んでも、時代の隔たりを感じさせず、全く色褪せていません。今年の新刊本と言われても全然違和感ないです。

これほどパンチのある新人作品が突如選考に上がり、さぞかし当時の選考委員は困っただろうな、とも思います。

あえて難を言えば、ちょっと長すぎるかもしれません。冒頭からすでに村上龍ワールドは全開で、その表現力が普通ではないことは十分すぎるほどわかるのですが、同じ調子で続いていくので、途中でやや食傷気味になりました。

せめてもう少しストーリー性があればいいのですが、ストーリーはあるようでない作品なので、これ、いつまで続くのかな、、という気持ちになってしまいました。

↓アマゾンのレビューも激しく賛否両極端です。どっちかというと反対派のほうが多いかも。
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