1980年から1989年までに芥川賞を受賞した16作品を読破しました。10年分を振り返り、自分なりに順位をつけてみました。
第1位
鍋の中/村田喜代子
夏休みの高校生と田舎のおばあちゃんというノスタルジックな舞台設定。単にノスタルジックなだけでなく、おばあちゃんが語る13人兄弟の思い出話は苦々しくもあり、ミステリアスな要素もあって、とても味わい深い作品でした。
第2位
ダイヤモンドダスト/南木佳士
冬の軽井沢を舞台にした静かな物語。身内の死をテーマにした重苦しい内容ですが、美しい風景の描写とポジティブな視点が爽やかで、後味の良い作品でした。
第3位
スティル・ライフ/池澤夏樹
人気作家の池澤夏樹氏の芥川賞受賞作です。独特の池澤節が好きかどうかというとそんなに好きではないのですが、文章の表現力などは他の受賞作と比べても異質なものがあり、相対的に見て3位としました。
第4位
光抱く友よ/高樹のぶ子
女子高生の友情を描いた青春ストーリーです。不良少女と優等生が仲良くなるというラノベ的な展開ですが、軽そうに見えて全然軽くないラストはさすが芥川賞受賞作。
第5位
青桐/木崎さと子
一切の医療を拒否して自宅でゆっくりと体が朽ち果てていく叔母を看取るという壮絶な物語。人間の自然な死に方というのはどういうことなのか、すごく考えさせられる作品でした。
第6位
夢の壁/加藤幸子
戦中から戦後すぐの中国を舞台にした中国人と日本人の交流を描いた物語です。戦争物は好きだし、中国も好きなので甘めの評価ですが、何だか無難にまとまった印象の作品。
第7位
長男の出家/三浦清広
長男が出家して僧侶になりたいと言い出し、推進派の父と反対派の母がギスギスする話です。とても興味深いテーマなのですが、なんで僧侶なのかが最後までよくわからず。
第8位
表層生活/大岡玲
コンピュータで何でもシミュレーションできてしまうマッドサイエンティスト的な友人がだんだん壊れてくるお話。かなりアラビキな作品ですが、テーマは結構好きです。
第9位
父が消えた/尾辻克彦
赤瀬川原平氏の別名義の作品。父のお墓を見学に行くというほとんどエッセイのような内容ですが、死にまつわる含蓄のある言葉が並び、なるほどなあと思わせる作品でした。
第10位
由煕/李良枝
日本で育ち韓国語をあまりうまく話せない在日韓国人の主人公が韓国に留学するお話です。日本にも韓国にも居場所がない心情の描写が秀逸でした。
【総評】
1980年代は不作の時期と言っていいでしょう。何といっても受賞作が16作品しかありません。選考会は年2回×10年で20回あるうち、何と9回が「該当作品なし」でした。実際受賞作も小粒なものが多く、なぜ芥川賞を受賞したのかよくわからない作品もいくつかありました。
一言でいうと「マンネリ化」と表現するのが一番しっくり来るのですが、とにかくいい作品を作ろう!という熱意が感じられない、どこか冷めた作品群という印象です。
1980年代といえば、世の中的には景気がよく平和な時期のはずですが、優れた文学作品はハングリーな状態じゃないと生まれないのかもしれません。
あるいはこの時期の選考委員の顔ぶれに問題があるような気もしてなりません。大江健三郎さん、丹羽文雄さん、安岡章太郎さん、吉行淳之介さんらです。コメントを見ていても、新たな才能を発掘しようという気持ちがあるのかないのか甚だ微妙。。
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純文学の登竜門、芥川賞。昔から直木賞と違って、芥川賞は小難しくて面白くない作品が多いと言われますが、本当にそうなんでしょうか。いまさら改めて、芥川賞受賞作品を1冊1冊読み返してみました。
芥川賞作品レビュー
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