重兼芳子「やまあいの煙」と同時受賞し、村上春樹の「風の歌を聴け」が落選した1979年上半期受賞作です。「やまあいの煙」は純和風の昔ながらの作品ですが、こちらは世界を放浪するヒッピーを描いた当世風の作品です。こういうバランスを取り方が芥川賞らしくていやらしいよな、、
主人公の日本人男子・犀太とオランダ人女子・ジニーの夫婦が東京とパリを舞台にどこかに放浪したいだとか離婚するだとかしないだとかでモメてる話です。
2人とも定職につかず世界中を旅して暮らす、当時で言うところのヒッピー的なライフスタイルを志向していますが、その背景にある価値観は全く違います。
日本人男子の犀太は内省的で詩人のようなタイプですが、オランダ人のジニーは享楽的で即物的なパーティーピープルです。
例えるなら、同じインドでもかたやバラナシで沐浴、かたやゴアでドラッグパーティーのような距離があり、むしろなぜ結婚したのかわからないぐらい交わらない2人。
特に日本人男子の犀太がなぜジニーに固執するのか、どうもハラオチできないので、ひたすら続く夫婦喧嘩の描写が全然共感できず、別に文句があるなら別れたらええやん、ぐらいの冷めた見方になってしまいました。
国際結婚という文化の違いの難しさみたいなものもテーマなのかもしれませんが、単に個人の価値観の問題のような、というのが感想です。
ただ、活字にすると身も蓋もない内容ではあるものの、なんとなくミニシアター系のおしゃれ映画のような雰囲気はあるので、サイケデリックな音楽とカラフルな映像にすれば、なんかよさげな感じがします。
もしかしたらそもそもゴダールあたりをイメージして書かれたのかも?と勝手に想像してみたり。
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