春の庭/柴崎友香(2014年上半期受賞)


入居者が1人2人と退去していく取り壊しが決まったアパート。その隣には昔「春の庭」という写真集で撮影されたことのある古い豪邸があり、アパートの住人の西さんはどうしても中を覗いてみたいとアグレッシブな行動を取る。あらすじとしてはそんな感じです。

取り壊しが決まったアパートと冴えない住人の面々という設定がなんとなく「海月姫」を思い出しました。

「海月姫」のようなハチャメチャ感は全くない淡々とした作品ですが、物語としてはそれなりに面白く、豪邸を覗いてみたいという西さんの気持ちもわかる気がします。

ですが、この作品はそういった物語性よりも、細切れのどうでもいい小さいエピソードが積み重ねられていて、特にそれぞれが何も意味がないという、うがった見方をするならば、芥川賞の選考委員受けしそうなところがポイントなんだろうなと想像されます。

随所に何かを感じ取れそうなエッセンスはあるのですが、味わおうとするとスルリと逃げていく、なんとももどかしいツンデレ感があまり好きになれませんでした。

特に後半、ここまでは太郎というアパート住人があたかも主人公のような扱いだったのですが、急に太郎の姉が一人称で語り始めたり、ラストシーンは柳美里の「家族シネマ」ばりのズッコケなオチ。

ストーリーにリズムが出てきたら、あえてそれをひっくり返すへそ曲がりな構成は、正直あざとさしか感じません。

勝手な妄想ですが、著者の柴崎友香さんはもっと他に書きたいものがあるんじゃないか、芥川賞狙いでわざと斜め視点なんじゃないか、そんな印象を受けてしまいました。(超余計なお世話ですが)


↓アマゾンのレビューでは賛否両論。何も起こらなくてつまらないという意見とそれがいいんじゃないかという意見に分かれていて、若干荒れてます。。

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