夢の壁/加藤幸子(1982年下半期受賞)


日中戦争から終戦前後の中国を舞台にした、中国人の少年と日本人の少女の心の交流を描いた物語。芥川賞には珍しく、変なひねりもなく真っ当な文学作品です。

中国人の少年は田舎の農村の出身で、戦争で母親を亡くしています。作品の前半は少年目線で故郷の村での出来事が描かれ、後半は日本人の少女目線で描かれています。少女は北京に住むお嬢様。田舎から北京に出てきた少年の父親は車引きとして雇われていて、雇用主と従業員の関係です。

立場の違いもあるし、言葉の違いもあり、少年と少女が交わることはほぼなかったけど、ひょんなことから微かな交流が生まれます。

そこだけを切り取ると微笑ましい光景なのですが、ベースにある日本人と下僕の中国人という構図がなんかドキドキします。歴史的にはこの時代の事実は事実なのでしょうが、21世紀の日中関係からすると、なかなか大胆な設定です。一方で何もドキドキすることはないはずなので、1982年の歴史感覚のほうが正常なんだと思います。

そんなザワザワ感を置いておくと、割とスタンダードなお話なので、当時の選考委員の間でも「普通すぎるだろ」という意見と「素直な良作である」という意見に二分されていました。

↓さすがにこれだけ古い作品だとアマゾンのレビューもまばらです。
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