今や芥川賞の選考委員でもある宮本輝さんの初期作品です。富山の田舎を舞台に繰り広げられる静かな人間ドラマ、そして蛍が乱舞するラストが感動的な正統派純文学です。
主人公の少年、主人公の母親、幼馴染の女の子、近所のお爺さんの4人で蛍の大発生を見に行くために、川を遡ってひたすら歩きます。
しかし、めったに見ることができない蛍の大発生。そう簡単には見ることができず、結局見れなかったねという結末を想像したのですが、裏の裏をかいてエンディングではついに出会えるという正攻法の物語でした。
いい話だと思う反面、その後の宮本輝さんの作品から考えるとちょっと安易な気もして、やっぱり初期作品ならではの荒削りな部分も少しはあるかなあと思ったりもしました。
一方文庫版に収録されている「泥の河」の方が名作なんじゃないかと思いました。
舞台は戦後の混乱期の大阪、中之島。土佐堀川で船上生活を送る一家の物語です。
今やビルが立ち並ぶオフィス街やリーガロイヤルのイメージしかない中之島ですが、こんな時代があったのかという驚きと、たくましい人々の営みに感銘を受けました。
近年の「骸骨ビルの庭」は戦後すぐの十三が舞台でしたが、やっぱりこの手の物語は輝さんの鉄板だなあと思いました。
↓アマゾンのレビューでもさすがの高得点です。
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