地方都市で働く主人公の女性が、夫の仕事の都合で仕事を辞め、田舎にある夫の実家に引っ越し、不思議な体験をするお話。
個人的には川上弘美さんの「蛇を踏む」のうそ話ぐあいがとても好きなのですが、それに近いおとぎ話性を持った、ちょっと怖くてほのぼのしたうそ話です。
物語の前半は仕事を辞めて専業主婦になること、夫の親との同居のことなど、女性目線の小説にありがちな日常的な出来事が綴られますが、黒い獣を追いかけて、謎の穴に落ちてから、物語の世界は微妙な歯車の狂いを見せます。
全く荒唐無稽なファンタジーというわけではなく、わずかな違和感とでもいうような奇妙さ。ちょっと雰囲気はジョジョリオンに近いかも?
キーになるのは、本来いないはずの夫の兄です。実家の敷地にある小屋に20年間仕事もせず住んでいて、その存在はなぜか隠されている謎のキャラ。
さぞかし変わり者で危険な男なんだろうと思いきや、意外にも爽やかな人物でますます謎が深まります。
最終的に謎は回収されないので、その分深読みしようと思えば色々深読みできそうですが、うがった見方をすれば無責任とも言えます。
結局何が言いたいのかよくわからないのでツッコミどころは満載ですが、個人的にはただただ幻想的でノスタルジックなうそ話として面白く読むことができました。
単行本で収録されている「いたちなく」「ゆきの宿」も同じようなゆるゆるとしたタッチで結構好きです。
↓アマゾンでの評価は賛否両論。読みやすい作品だけに、謎の部分の理解不能さがダメな人にはダメなようです。
穴(Amazon)
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