「計算機」とあだ名されるマッドサイエンティスト的な学生時代の同級生が、コンピュータを駆使してなんでもかんでもシミュレーションしているうちに精神が壊れて行くお話です。
この作品はなぜか読む前に芥川賞選考委員の書評を見てしまったのですが、その中に人工頭脳がどうのこうのという記述があり、一体どういう話なんだとちょっと期待していたら、どうやら人工頭脳というのはコンピュータのことでした。
まだパソコンが一般的ではなかった1989年当時のことを思うと、確かにコンピュータというのはSF的で、理系のオタクしか使っていないイメージはありました。
作品そのものよりも選考委員コメントに時代を感じますが、そういう時代背景を踏まえて読まないと、現代的な感覚で読んでしまうと、滑稽な印象しか受けない作品かもしれません。
ただ、舞台装置の古臭さに目をつぶれば、なんでもシミュレーションできてしまうがゆえに、シミュレーションできない何かを求めてしまう逆説的な「壊れかた」は割と好きなパターンです。
しかも、シミュレーションできない何かを求めて危険な行為に及んだのに、結局想定外は起きず、シミュレーション通りになってしまうというのも面白い結末でした。
と、着想はいいと思うのですが、いかんせん小説としてはだいぶ粗削りで、特に後半の展開は相当なアラビキ感があります。
↓アマゾンではそこらへんが結構ボロクソ書かれていますが、個人的にはそこまで嫌いじゃないです。
1980年代の受賞作一覧に戻る