現代の修道院を舞台にしたセックスと暴力と宗教のお話。禁欲の世界での同性愛やら少年愛やら、もう聞くに耐えないようなえげつない内容ですが、日本の修道院という特殊な舞台設定と、不思議と品のある文章で、決して嫌な気持ちにはなりませんでした。
特に受賞作のゲルマニウムの夜だけ読む限りでは、独特の雰囲気と艶かしい描写で、むしろ性のもたらす快楽と宗教のもたらす快楽をオーバーラップさせた表現も中世の宗教画のような神々しい印象さえ感じました。
しかし、ゲルマニウムの夜で終わるならよかったのですが、この話は連作として続きがあって、読み進めるにつれて、ひたすら異常性愛や暴力ばかりが描かれる展開にお腹いっぱいになりました。
殺人や姦淫の罪を犯した自分を、神は裁くことができない。それどころか罪を告白することで許されてしまう。犯罪者の逃げ道にさえなってしまうキリストの教えは、この世界に何をもたらしたのか?
むしろ犯罪の抑止にも再発防止にも寄与せず、全くの無力ではないのか?現に自分の行為を誰も止めることはできない。
そんな主人公の神への挑戦は理屈としてはよくわかるのですが、かといって自分自身がその象徴として悪の限りを尽くしてやろうというモチベーションがどこから来るのかはよくわかりません。
なので、話が長くなるに連れて、ただただ破滅的な行動が繰り返されるだけのような印象になってしまい、中だるみ感は否めませんでした。
魅力的な物語だと思うので、長編にするなら、何かもう一つぐらいエッセンスがあるといいのになあと思いました。
↓好き嫌いは分かれそうな作品ですが、アマゾンのレビューでは高評価です。
ゲルマニウムの夜(Amazon)
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