水滴/目取真俊(1997年上半期受賞)


舞台は沖縄で、主人公は沖縄戦で戦友をなくした老人。戦後50年経ったある日、突然足が冬瓜のようにパンパンに腫れ上がり、足指から水が湧き出てくるのを、毎晩兵士の亡霊が水をすすりにやってくる、という世にも奇妙な物語です。

戦友を見殺しにしたという自責の念と、50年経った今、戦争体験をネタに講演をやっている後ろめたさから、亡霊の出現に繋がるのですが、戦争の描き方が淡白で、なぜ主人公がそこまで心に傷を負っているのかがよくわかりませんでした。

もちろん沖縄戦は周知の事実で、皆まで言わなくてもわかるでしょ、ということなのかもしれませんが、この物語の出発点が沖縄戦である以上、もっと壮絶な体験が描かれて欲しかった気がします。(不謹慎ながら)

ただ、沖縄の土俗的雰囲気や、突然足が腫れてきて水が出てくるという突拍子もない発想は、まるで中崎タツヤさんの漫画のようなアナクロでアングラな感じの世界観で、好きな人は好きな雰囲気だと思います。

私も決して嫌いではないのですが、だからこそもっとドロドロしたドラマを期待してしまったので、ちょっと食い足りない印象でした。

↓アマゾンのコメントは少ないものの評価は割と高いです。
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