冥土めぐり/鹿島田真希(2012年上半期受賞)


過去にお金持ちだった時代の生活にしがみつく元スチュワーデスの母と、アルコール依存性で自分は留学さえすれば世界で名を成すことができるという誇大妄想に取り憑かれた弟を持つ主人公が、金と虚栄にまみれた家族との関係に絶望の日々を送りつつも、夫の病気をきっかけに少しだけ光を見出す、というお話。

バブルの象徴のような母と弟に対して、障害を持つのんびり素朴な夫がその対極の存在として登場します。そんな夫との小旅行を通して、過去の不快な思い出を振り返ることがたぶん「冥土めぐり」ということなんだと思います。

最後はケセラセラ的な境地に目覚めて、ちょっとだけ楽になるのですが、夫側から見ると随分身勝手な話で、どうも釈然としません。

率直な感想として、ほんわかと誰からも好かれる愛すべき愚者、のような描き方がどうかと思います。

障害を持つことはそんな生易しいことではないでしょうし、あんたは気楽でいいよな、的な侮りが見え隠れして、気分のいいものではありません。

ただ、後から知ったのですが、鹿島田真希さん自身、夫が障害を持っているらしく、そう考えると、きっと身内だからこその遠慮のなさとか、少しでも前向きに捉えたい思いが込められているんだろうなと思いつつも、その予備情報がない状態では単にデリカシーがないように見えてしまいドン引きでした。

一方で、家族との悪縁が断ち切れない成り行きは共感できるだけに、そこから一歩踏み出すためのきっかけが夫の障害である必要があったのかはとても疑問です。

普通にマイペースな夫だとか、無垢な子供だとか、価値観が異なる友人だとか、脱サラして農業を始めるだとか、いくらでもやりようはあるような気がしますが、それじゃダメなんでしょうか。

なんとなくですが、「冥土の話」と「救いの話」がそれぞれ独立したアイデアとしてあって、後から無理やり一つの作品として合体させたような違和感がありました。

↓アマゾンの平均点はわりと高めですが、高い人と低い人の差が激しい印象。
冥土めぐり/鹿島田真希

2010年代の受賞作一覧に戻る

芥川賞作品レビュー