離散した家族が、ドキュメンタリー映画の撮影のために再び家族を演じる、受賞当時は結構話題になった作品です。昔読んだ記憶はあったのですが、改めて読んでみたところ、全く面白くない、、。こんなに面白くなかったっけ?とむしろ不思議な感じさえしました。
そもそも妹が売れない女優で、素人の家族が出演する映画を作ることになる、などというシチュエーションはありえないでしょ、、。
そこはまあフィクションなのでと百歩譲ったとしても、一つ一つのエピソードも全然リアリティがなく、つながりも必然性もないものばかり。
そして、致命的なことに、主人公の「私」がどういう人物なのかが全くわからないし、他の登場人物も同様に内面に踏み込んで描かれないので、誰にも何も感情移入できません。
この点は狙っているのか狙っていないのかが不明ですが、なんとなく自伝的作品であるがゆえに、感情に踏み込むことを自主規制しているような印象を受けました。
逆に、もし狙っているのだとすると、わかりあえない家族の「わからなさ」を描いているとも読めなくもないですが、だとしたら何を読めばいいのか、読みどころがわかりません。
結局、この作品は作り物じみていて、まさに演劇を観客席から見ているような、当事者感のなさがダメなんだと思います。
ただ、こういう反面教師的な作品があると、逆に作り物であることを感じさせず、物語の世界にすっと引き込む作品を創作することは、高いレベルの筆力が必要なんだな、ということを改めて痛感しました。
↓アマゾンでも5点満点中2.3点とかなりの辛口評価です。
家族シネマ/柳美里
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