蛇にピアス/金原ひとみ(2003年下半期受賞)


よくあるエログロ、アングラ系の作品です。芥川賞でも周期的にこの手の作品が受賞していますが、数あるこの手の作品の中でも相当ダメな部類に入ると思われます。まあ、ダメかどうかは人それぞれですが、少なくとも自分的は全く好きになれませんでした。

舌ピアスをどんどんでかくしていって、最終的に舌先を蛇のように二つに割くという「スプリット・タン」に憧れて、やたらピアスの穴をあけたり、刺青をいれたりする女の子の話です。

しかし、致命的なことに、どうしてそんなことをするのかの動機に乏しく、全く感情移入できませんでした。

本来、多くの読者にとって舌ピアスや刺青は遠い世界なわけだから、そこをつなぐ背景や心の動きが描かれないと、「ふーん。だから何?」以上の感想を持つことは難しいと思います。

総じてこの作品は「バカな世界のバカな若者を紹介する」というスタンスで書かれていて、動機についても「バカだから」の一言で片付けようとしているのが、とても嫌な気持ちにさせられました。

主人公の女の子は確かにバカではあるけど、パンクカルチャーにどっぷりハマっているタイプのバカではないのに、突然そっちの世界に行く理由がわかりません。

この作品で描かれているような、単なる虚栄心や投げやりな気持ちだけでは、スプリット・タンや龍の刺青なんてところには至らないと思います。

確かに表面的にはバカな若者は何も考えていないように見えるかもしれないけど、内面はそう単純ではないはずですし、仮に本当に何も考えていないのだとしても、そんなことを小説で表現されても不快なだけです。

セックス描写が過激でけしからんという批判もありますが、この作品のけしからんのはそんなことではなく、若者を見くびった態度だと思います。

同時に受賞した同年代の綿矢りさの「蹴りたい背中」と比較されることの多い作品ではありますが、「蹴りたい背中」は若者の未熟さを未熟なりに、自分ごととして描かれているのに対して、「蛇にピアス」は全然自分ごと化できておらず、お茶の間でドキュメンタリー番組を見ているような外からの視点だけなので、表面で起きている事象は読み取れますが、その内面には全然迫ることができません。

いやいや、若さというのはそういうもので、理屈じゃないんだよ、衝動こそが若さなんだ、あるいは、無気力で投げやりなのが現代の若者の姿なんだ、というのもわからなくはないのですが、それこそが傍観者の視点だと思うんだよなあ。。

逆に、深掘りしないステレオタイプな若者像が、芥川賞先行委員の高齢者には響いたのかな、とか、ちょっとひねくれたことまで考えさせられました。

↓アマゾンのレビューでもケチョンケチョンに書かれてます。大きく分けると、「けしからん」派と「技術が拙すぎる」派に分かれてます。
蛇にピアス/金原ひとみ

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