アンネの日記に描かれたホロコーストと、京都の外語大学の女の園をオーバーラップさせた、ちょっとユニークな物語です。
しかし、軽い文章なので軽く読み飛ばしていたら、実はなかなかややこしい内容で、あまり読みこなせませんでした。
外語大学に通う主人公は、ドイツ語でアンネの日記を暗唱するスピーチコンテストに出場することになり、何度も読むうちに、アンネ・フランクの隠れ家の「密告」と、乙女と呼ばれるドイツ語ゼミの女子グループ内の「密告」を重ね合わせていくのですが、あえてレベル感の違う観念を比喩としてつなぎ合わせているため、一生懸命対比して読まないと、スッとは理解できません。
ナチスから迫害されるユダヤ人のアンネ・フランクと、同じゼミの女子学生たちから「あなたは乙女ではない」とレッテルを貼られた主人公。
この両者を観念の上では同じ存在として読まなければならないのですが、頭ではわかっていても感覚的にはあまりピンと来ず、どうしても「頭で読む本」という感じでした。
興味深いテーマだと思うので、作者の言いたいことが、もっと感覚的に入ってくれば面白いとは思いますが、頭で考えなければならない点で、どうしても素直には楽しめませんでした。
たぶん「アンネの日記」と「現代の日本」をリンクさせるというチャレンジングな試みのうえに、現代の日本の舞台設定もチャレンジングすぎるため、リンクの関係性がわかりづらくなってるんだと思います。
日本の現代のほうが身近で共感できる設定なら、もっとストレートに伝わった気がしますが、一方で、ストレートには伝わらないような暗喩がこの作品の芥川賞たる所以なんだろうなとも思います。
多分に読解力を要求される作品なので、正直自分の読解力のなさも痛感しつつ、かといってもう一回読み直すかというとそこまでのモチベーションは湧かない、そんな作品でした。
↓アマゾンの評価は微妙。話を理解してハラオチした人、理解したけどハラオチしてない人、理解してない人、で意見が分かれてる印象です。
乙女の密告/赤染晶子
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