榧の木祭り/高城修三(1977年下半期受賞)


里とは隔離された山村を舞台に、閉鎖的な社会の因習とも言える「村のしきたり」に縛られて人生を送る人々と、そこで年に一度行われる榧の木祭りを描いた作品です。

榧の木祭りでは村の成人が森に入って榧の実を集め、最もたくさん集めたものがカミ、最も少なかったものがゲスと呼ばれ、村での序列が決まります。

祭りは子作りの場でもあり、カミになった者から順に好きな異性を指名することができますが、カミはその後子種だけ残し生贄にされ、ゲスは村からは追放されます。つまり、首位と最下位が村から抹殺されるしきたりになっています。

大人たちはそのしきたりを知っているので、暗黙のうちにカミとゲスになる人を決めておいて、他の人はカミにもゲスにもならないよう、うまく榧の実の個数を調節しますが、初めて参加した主人公はしきたりがわからず本気でがんばってしまい、カミになってしまいます。

この祭りの真意は口減らしで、里では飢饉で多くの人が餓死するなか、この村では冷徹な人口調節により耐え忍んできました。

その代わり村を発展させることは一切拒否し、山の恵みで食べていける規模を維持するために、しきたりという名のシステムを作り上げ、守り抜くことで村を存続させてきました。

榧の木祭りも村の存続のために役に立たないゲスを追放という形で口減らしして、逆に村を発展させる恐れのあるカミは、他の村で活躍しないよう、生贄の形で口減らしをし、結果村のしきたりを守って現状維持だけを望む村人だけが残る仕組みになっています。

一見全く無意味な悪習のように見えて、「弱者」と「出る杭」が打たれ、ことなかれ主義の人々が生き残るという伝統的な社会の仕組みは現代に通じるものがあり、古い作品ながら全く古くささを感じさせずとても興味深く感じました。

ただ、メッセージ性が直接的すぎることもあり、どちらかというとキワモノ扱いで、選考委員の評価は同時受賞した宮本輝さんの「螢川」のほうに偏っていたような印象でした。

個人的には舞台の土俗的な雰囲気と、ムラ社会では逃れることのできない運命の絶対性のようなものがすごくツボで、心に響いた作品でした。

↓古い作品なのでアマゾンでのレビューはごくわずか。
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