エーゲ海に捧ぐ/池田満寿夫(1977年上半期)


著名な版画家でのちにタレントとしても活躍していた池田満寿夫の芥川賞受賞作。彫刻家である「私」が、サンフランシスコのアトリエで裸の愛人を前に日本にいる妻と国際電話で会話するシーンが延々と続く密室劇です。

この作品は映画化もされ、とにかくエロさが物議を醸したようですが、エロさというよりは、ワンシチュエーションで固定されたドラマの実験精神が面白いと思いました。

隣に愛人がいるんでしょ?私にはわかるのよとネチネチ絡む妻、そしてコレクトコールで料金がどんどん上がっていくのを気にする私、その横でレズプレイを始める愛人。

ずっとこのシチュエーションだけが続くという大胆すぎる構成です。

ただ、表現手段として小説が最適なのかどうかは疑問もあります。このシチュエーションの面白さは映像的なものなので、ショートムービーみたいなのが一番ぴったり来そうです。映画は長編のようでしたが、個人的には短編のほうがよい気がします。

それにしてもタイトルがエーゲ海なのでエーゲ海を舞台にした物語かと思いきや、まさか女性器のことだったとは驚きでした。

エロ表現はB級官能小説のようなので、たしかに受賞に反対する選考委員がいるのも当然だと思います。実際、永井龍男氏が受賞に抗議して選考委員を辞任する騒動があったそうです。

今となっては前衛的とまでは思いませんが、何を表現するかではなく、どう表現するかにフォーカスされている点において、この作品を純文学として評価するのが適切なのかどうかは意見が分かれそうです。

一方この時同時受賞した三田誠広さんの「僕って何」はいたってスタンダードな文学作品なので、ますます同列に扱うべきなのかどうかが微妙なところ。

近年の「abさんご」や「道化師の蝶」などの前衛作品と比べれば全然かわいいレベルだと思いますが、芥川賞の方向性に一石を投じた作品であることは間違いないでしょう。

↓アマゾンのレビューでは数は少ないものの高評価。
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