九年前の祈り/小野正嗣(2014年下半期受賞)


大分県のリアス式海岸沿いにある小さな集落が舞台。主人公のさなえは発達障害の息子を持つ35歳のシングルマザーで、旦那のカナダ人と別れて、東京から故郷の大分県に帰ってくる、という物語です。

全体的に読みやすい文体で、すらすら読めるものの、色々説明不足だったり、やたら登場人物が多かったり、現実と幻想の境目がよくわからなかったり、読めるけど意味はよくわからない作品でした。

メインテーマが何なのかもはっきり掴めないのですが、たぶん発達障害の子どもを抱えて、つらい、何とかしてほしい、楽になりたい、みたいなところなのかなと思ったのですが、肝心の子どもの障害がよくわからず、いきなりつまずきました。。

スイッチが入ると引きちぎられたミミズのようにのたうち回る、という表現が何度も出てきて、というか、それぐらいしか子どもの特徴が描かれないのですが、小さい子ならそんなの当たり前だし、そんなのでウジウジ言われてもなあ、と。

そしてこの物語のもう一つの軸は9年前に近所のおばちゃん連中と行ったカナダ旅行です。モントリオールの教会で同行のおばちゃんが祈る姿を見たエピソードが出てきて、作品のタイトルになっているぐらいだから、きっと何か重要な意味があるのでしょうが、これまたさっぱりわからない。。

国語のテストのように線を引いたり、丸をつけたりしながら読めば、何かが何かの伏線だったり比喩だったりするのがわかるのかもしれませんが、さらっと読むだけでは全くわからず、正確に言うと一つ一つのエピソードはわかるし、面白くもあるのですが、なぜ今それを言うか?がわかりませんでした。

自分の読解力のなさもさることながら、根本的に主人公の気持ちとシンクロできていないのが原因だと思います。雰囲気は悪くないだけに残念でした。

↓アマゾンのレビューは賛否両論でまとめると平均点ぐらい。著者の小野正嗣さんが地元大分の出身で、「土地が書かせた」とコメントしていることについての批判も。
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