モッキングバードのいる町/森禮子(1979年下半期受賞)



舞台はアメリカの田舎町。戦争花嫁として軍人の夫とアメリカに移住した3人の日本人妻を描いた物語です。アメリカ社会で暮らす日本人妻の苦難というテーマは、1993年上半期の芥川賞受賞作「寂寥郊野(吉目木晴彦)」とも似ていて、同作の前編と言ってもいいぐらい共通する雰囲気がありました。

主人公の圭子、ネイティヴアメリカンの青年と浮気しているスウ、教育熱心が行き過ぎて子供を殺してしまったジューンと、三者三様の日本人妻が登場します。

圭子の夫のジェフは退役軍人ですが、保守的で傲慢な典型的なダメアメリカ人という感じ。勝手なイメージですが、共和党のトランプ氏の支持層というのはこんな感じなんだろうな、とか思いました。

そんなトランプ氏のような夫の妻として、アメリカの田舎町で異邦人として暮らし、日本に里帰りしてみたいと言い出すこともできない諦めや閉塞感がなんとも切なくて、特にラストのネイティヴアメリカンの静かな祭りのシーンは、様々な感情を飲み込んで、何も答えは出ないけど、「まあ、そんなもんだよ」と語りかけてくるような雰囲気が感動的でした。

全然違うけど、個人的には宮本輝さんの「螢川」のホタルと近い印象を受けました。

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