9月の空/高橋三千綱(1978年上半期受賞)


高校で剣道に打ち込む15歳の勇。夏休みの部活を休んで北海道・東北に貧乏旅行に行き、少し大人になった9月からのスクールライフを描いた青春ストーリーです。

この物語の軸は剣道です。著者自身が剣道をやっていたらしく、試合や練習の描写がリアルでスポーツものとしてとても面白く読めました。
しかし、そこに女子が絡んでくるのがなかなか下世話です。青春のひとコマとして、淡い恋心なんかも描きたくなるのが人情なのでしょうが、そのせいで完全にあだち充のような世界観になっています。

たぶん主人公がモテるのが最大の問題点です。高校一年生の時代に複数人の女子と親密にしている状況は、もちろん一部にそういう人もいるとは思いますが、大半の男子にとっては夢物語でしょう。なおかつ、世の中そう都合よく幼なじみの女子が美人なわけがないです。

とはいえ、この作品は1978年に発表されたもので、あだち充の「タッチ」などはもう少し後の時代です。そういう意味で、今となってはベタな漫画的展開だと感じてしまったとしても、当時としては先進的な作品だったのではないかとも思います。

逆に、この作品が漫画だったら、結構面白いんじゃないかとも思いました。ガチの剣道マンガで恋愛模様が絡んでくる作品というのもあまりない気がしますし、「サンデー」あたりで連載してたら人気作品になってたんじゃないでしょうか。

と思ったら、高橋三千綱氏はマンガ原作者としても結構活躍してるみたいです。個人的には一冊も読んだことはないですが、なんとなくわかる気はしました。また、本作「9月の空」は受賞年に映画化もされているようです。

しかし、それはそれとして評価に値することだとは思いつつ、芥川賞受賞作としてはどうなのか、当時の時代背景を踏まえても、若干の疑問は禁じえません。

↓アマゾンでの評価は高め。個人的にも芥川賞というフィルターをなくしてしまえば普通に面白い作品だと思います。
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