やまあいの煙/重兼芳子(1979年上半期受賞)


親の代から火葬場で働く主人公の男性。世間からは嫌忌される仕事ではあるものの、誇りとこだわりを持って日々遺族に寄り添っているが、好きになった女性には仕事のことを打ち明けられなくて悩む、というような物語です。

日々死と向き合う仕事だからこその哲学的な死生観を持ち、遺体を焼く作業にも誠心誠意向き合う姿は、のちの「中陰の花/玄侑宗久(2001年上半期受賞)」にも似た雰囲気があります。

しかし、1990年以降であれば、静かに哲学的には物語の幕を閉じることが許されたかもしれませんが、おそらくこの時代にはまだ起承転結が要求されたのでしょう。

無理やり全く別の作品を挿入したような「転」が突如入り込みます。

あまりにも主題とかけ離れているうえに、プロットも無茶苦茶で、「芥川賞風にするためにチャチャっと一話入れちゃいました!」ぐらいの強引さです。選考委員の顔色を見てしまったのかもしれません。

もちろん結果的には芥川賞を受賞するわけですが、無理やり芥川賞風に仕立てた本作が受賞する一方で、この年の選考で村上春樹の「風の歌を聴け」が最終選考にノミネートされるものの落選しています。

選考委員のなかでも遠藤周作、吉行淳之介、丸谷才一は村上春樹を推していますが、そのコメントでは「実力は申し分ないが芥川賞風ではないのではないか」と言っているように聞こえました。もちろんはっきりそう言っているわけではありませんが。

一方の本作は無難にまとまっているため、各選考委員とも減点法では積極的な減点コメントは少なく、「可もなく不可もなく多数決で受賞」という雰囲気でした。

たしかにこの時代の芥川賞っぽいのは本作だと思いますが、なんとなく過去の名作の舞台を火葬場に置き換えただけの焼き直し感のある作品なので、本来の新進気鋭の新人作家が受賞する芥川賞として、これでいいのかは少し疑問を感じました。

↓アマゾンのレビューでは「おくりびと」のようで秀逸とのコメントが。まあ、悪くはないと思うんだけど・・・
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