伸予/高橋揆一郎(1978年上半期受賞)


かつて小学校の教師をしていた主人公の伸予。50歳を前に夫に先立たれ未亡人になった伸予の前に、教師時代に思いを寄せていた教え子と再会し男女の仲になるお話。

戦後すぐの小学校で、女教師が教え子の男子を好きになり、執拗にアプローチするという禁断の関係。禁断というか、異常性愛的で不気味な関係です。

そして30年の時を越えて、奇しくも未亡人になった伸与がかつての教え子を自宅に招き、露骨にお色気アプローチをかけます。

その描写はたしかに文学的で中年女性の心情を生々しく表現されているのですが、個人的にはそういうのはいらないなあと感じました。

この物語にはもう1つの軸があって、小学校教師時代の伸与が当時のことを何も覚えておらず、伸与には知らされていなかったけど、周囲では衆知の噂となっていた事実がたくさんあるというサイドストーリーです。

さらに、かつて文通していた戦場の兵隊さんが引き揚げてくるが母がその手紙を隠していた話とか、いかに伸与が世間知らずだったかというエピソードが散りばめられていて、あたかも映画の「ニューシネマパラダイス」を彷彿させるような雰囲気がありました。

好みの問題かもしれないけど、「中高年の性」ではなく、「若気の至り」に重点を置いた方が素直に感動できた気がします。

要所要所では面白い作品だなあと思えましたが、せっかく「若気の至り」路線になってきたところで、再び「中高年の性」に振り戻され、がっくり。

特にラストはダメでした。何がダメかは言いませんが、そっちじゃないだろと。。

惜しい作品でした。

↓古い作品なので仕方ないのですが、アマゾンでもレビューは少ないです。
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