白い人/遠藤周作(1955年上半期受賞)


芥川賞を受賞した遠藤周作の初期作品です。
ナチスドイツ占領下のフランス・リヨンを舞台に、ゲシュタポの手下となった主人公、旧友の神学生ジャック、その従姉妹のマリー・テレーズの裏切りの物語です。


かつて「沈黙」や「海と毒薬」を読んで、「なんてすごい作品を書くのか」と強烈な衝撃を受けて以来、遠藤周作は尊敬する作家の一人ですが、「白い人」もその片鱗をうかがわせる「ザ・遠藤周作ワールド」というような作品です。

何がすごいかと言うと、遠藤周作作品に共通する「絶望的なまでに神はいない。けどいる」という異様な迫力です。

「白い人」の主人公はどこをどう解釈しても徹底的に悪です。

敬虔にキリスト教を信じる友人ジャックとその従姉妹のマリー・テレーズを同情の余地がないぐらいに裏切り、残酷な拷問にかけることで、これでもかと神の救いのないことを証明してみせます。

それでも神の存在は否定されません。

キリスト教徒に共通する世界観なのか、遠藤周作独自の世界観なのかわかりませんが、信仰心の薄い日本人には到底想像できない深すぎる信仰のあり方です。

正直、遠藤周作自身、キリスト教のことが嫌いなんじゃないかと思うぐらい、信仰の無力さを描きます。

花村萬月さんの「ゲルマニウムの夜」も同じような世界観だと思うのですが、これでもかと神の教えに背くようなことをするけど、それでも神の存在は否定されません。

そもそも、日本の神社やお寺のようなお祈りすれば願いが叶うというギブアンドテイク的なものではなく、ご利益があろうがなかろうが、好きだろうが嫌いだろうが、そこに神の存在を肯定すること自体が宗教なんだろうな、と想像されます。

特に信仰心のない身としてはなんだか窮屈な思想のような感じもしますが、最後の最後で神様が尻を持つという安心感みたいなのもあるかないのか。

そんなことを考えさせられる作品自体稀有なので、読むたびに遠藤周作先生は偉大だなあと改めて実感しました。

↓さすがにアマゾンでも高評価。文庫版で読めます。
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芥川賞作品レビュー