2000年から2009年までの受賞作品22作を読破したので、10年分を振り返り、自分なりに順位をつけてみました。
第1位
中陰の花/玄侑宗久
文句なしの1位です。著者が現役僧侶という話題性もさることながら、「死」という根源的なテーマがとても自然体で描かれていて、嫌味なく仏教というものに触れることができる稀有な作品だと思います。
第2位
時が滲む朝/楊逸
この作品は中国の大学という舞台設定が秀逸で、幕末の志士のような国の将来を担う若者のエネルギーみたいなものがぐっと来ました。大河ドラマ級の壮大さは、ある意味芥川賞っぽくはないのですが、純粋に作品として面白かったです。
第3位
ひとり日和/青山七恵
2000年代以降の芥川賞の、良くも悪くもメインストリームになっている「何も起こらない系」の作品ですが、女子受けしそうな草食っぽい空気感が好きです。主人公は宮崎あおいのイメージ。前向きなラストシーンがとても印象に残りました。
第4位
熊の敷石/堀江敏幸
フランスのノルマンディー地方を舞台にした、とても映像的な作品です。静かなエレクトロニカが流れるミュージックビデオのような印象。身近な等身大のお話もいいのですが、こういう外国の街角にトリップできるような作品がもっとあってもいいのになと思いました。
第5位
沖で待つ/絲山秋子
選考委員のコメントでは会社勤めのリアルな描写や、同僚同士の友情などが評価のポイントになっていましたが、私は川上弘美さんの言う「うそばなし」的なおとぎ話性がとても面白く思いました。ですます調の脱力感も好きです。
第6位
土の中の子供/中村文則
児童虐待のトラウマを描いた大変暗い作品ですが、トラウマを乗り越えるためにあえて暴力を受け続けるという屈折した心の動きがやたらリアルで、追体験感がハンパないのがポイントでした。もう一回は読みたくないけど。。
第7位
聖水/青来有一
好奇心をそそる「現代にも残る長崎の隠れキリシタン集落」という題材がポイント高し。物語の面白さとしては普通ですが、着眼点が秀逸でした。
第8位
蹴りたい背中/綿矢りさ
最年少受賞で話題になった作品。少女マンガ、もしくはラノベ的な内容なので、これが芥川賞でいいのかという議論はありつつも、面白いか面白くないかで言うと、私は結構面白く読むことができました。
第9位
介護入門/モブ・ノリオ
思いっきり奇をてらった文体でキワモノ系かと思いきや、実は心にしみる内容で、見た目と中身のギャップにやられました。読みづらいのがネックですが。。
第10位
八月の路上に捨てる/伊藤たかみ
2000年代の芥川賞受賞作は全部で22作品なので、10位まで来るとほぼ消去法。離婚に至る経緯がリアルな感じはしますが、全体としては普通です。
【総評】
芥川賞読破プロジェクトを始めて、新しいものから順に読破を進めているので、まだまだ芥川賞とは?を俯瞰することはできないのですが、2000年代の作品を読んだ感想としては、文句なしに面白い!と言える作品が少ないなあと。
選考委員のなかでも、現代の純文学はどうあるべきなのか、純文学とは何なのかを模索した10年間だったような印象を受けます。
時代の空気を反映した「蛇にピアス」「蹴りたい背中」、前衛的な手法の「アサッテの人」「介護入門」、何も起こらない日常を描いた「ポトスライムの舟」「ひとり日和」などなど、毎回傾向が異なり、ローテーションで去年はこれ系だったから今年はこっちにするか、みたいな選び方をしてるんじゃないかと勘ぐりたくなるぐらいの揺れ幅です。
でも、そこが結構面白くもあり、選考委員がどの作品をどう読み解くかも楽しみの一つ。
まだまだ芥川賞読破の道は長いです。
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純文学の登竜門、芥川賞。昔から直木賞と違って、芥川賞は小難しくて面白くない作品が多いと言われますが、本当にそうなんでしょうか。いまさら改めて、芥川賞受賞作品を1冊1冊読み返してみました。
芥川賞作品レビュー
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